利益を出し続けていた会社が経営権を失うには
利益も財務状況も安定していた会社が、一族の方針のずれから経営権を失った実例があります。

マレーシアのアルミ缶メーカー、Kian Joo Can Factory(上場会社)は、1956年に創業。1994年、創業者一族の兄弟は、同社の株の34.64%を持つ一族の持株会社を清算することで合意しました。清算のやり方をめぐって、一族は2つに分かれました。
株主たちの主張
持株会社の株主は27人でした。45%を持つグループは、株をそのまま一族で分けることを望みました。55%を持つグループは、株を売って現金で分けることを望みました。裁判所は、株を売ることを認めました。(出典:The Edge Malaysia、2009年6月29日、2019年4月30日、2019年12月30日)
2007年の入札では大きな動きはなかったが、2009年2月に締め切られた2回目の入札で、同業のCan-Oneが32.9%の株を落札しました。それは、この株を手に入れて経営権を保とうとしていた長男たちにとって、大きな打撃でした。
経営権失権
一族の一部は法廷で取引を止めようとしましたが、Can-Oneは2012年1月、32.9%の株を買って経営権を握りました。2014年、兄弟は和解して手を組みましたが、経営権を失うのを止めることはできませんでした。2019年4月、Can-Oneによる残りの株の買い付けが締め切られ、同社は97.48%を持つことになりました。Can-Oneは上場を続けない方針でした。
マレーシアの経済紙The Edgeは、兄弟の足並みがそろわなかったために、経営権を失ったと評しています。Kian Joo Can Factoryは安定して利益を出し、深刻な財務の問題もない会社でした。
手堅いプランニング
売却を決めたタイミングにおいて、いつ、どんな形で実行するかをしっかりとプランしておかないと、このようなことになります。意見が分かれたタイミングで一族として1つの条件を出せないことは、どこの国であれ大きな問題となります。
この事例では、持株会社を清算する方針自体は合意していました。その先の株を分けるのか、売って現金にするのかということが決まっていませんでした。入札という買い手の動きが始まってからも、一族内部で方針を争い続ける形になってしまったのです。
先に売却の方法と時期を決めておく意味は、ここにあります。株主間で方針を文書にしておけば、買い手が現れたときに「売るか、残すか」ではなく、「どの条件で応じるか」に話を進められます。価格や時期の目安がないまま「売る」と「分ける」を一緒に議論すると、判断が裁判所や外部の買い手の動きに追いつかなくなる場合があります。判断が間に合わなくなる場合もあります。
事業承継とは、出口を次期社長に託すこと
会社の出口は4つあります。廃業(たたむ)、売却(売る)、M&A(ほかの会社と一緒になる)、上場です。親族や社員が継ぐ事業承継は、もう1つの道です。ここでは、4つの出口には含みません。継いだあとも、会社の出口は引き続き同じ4つとなります。継ぐとは、出口を次の社長に託すことです。
たたむ以外の3つの出口では、必ず「この会社はいくらなのか」を問われます。出口の準備は、会社の価値を知ることから始まります。
会社の価値を大まかに捉えるとき、利益にPER(株価収益率)を掛ける考え方があります。PERは「株価 ÷ 1株当たり利益」で表されます。今の利益水準のまま推移した場合、投資した資金を回収するのに何年かかるかという意味でもあります。
買い手が必ずこの計算式を使うとは限りません。ただ、価格の目安が先にあれば、株を分ける案と現金にする案を同じフレームで比べられます。
どの出口がよいかを決める指標は、社長自身がこの先どう生きたいかです。良くない出口は、何も選ばなかった出口だけ。Kian Joo Can Factoryでは、利益のある会社をどう残すかを一族で選びきれなかった結果、外部の買い手に出口を決められてしまいました。
あなたの会社の出口において、いま一番近い選択肢は4つのうちどれでしょうか。
※HTML版がこのページの正本です。本記事は事業に関する教育と情報提供であり、売却価格・融資・投資・税務の個別の助言ではありません。