「売却」を「事業承継」と勘違いした社長

事業売却時に移行期間と解除条件を設けることで、万が一の際に株式を買い戻せる可能性があります。

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BCB Japan 編集部
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後継者のいない会社がM&Aで事業を譲る際、移行期間と解除条項を契約に盛り込むことで、道を残せることを示した図

茨城の納豆メーカーに起きたこと

茨城県で納豆製造を営む金砂郷食品には、後継者がいませんでした。経営者は2023年3月、事業承継を目的に、ある投資会社と自社株式の譲渡契約を結びました。経営者によると、個人商店として銀行借り入れに頼りながら続けるには限界があると感じていたといいます。(出典:日経ビジネス電子版 連載「敗軍の将、兵を語る」(2024年11月1日))

この契約には、半年間の移行期間が設けられていました。投資会社が契約を守らなかった場合、すぐに契約を解除できる条件も入っていました。

支払いの先延ばし、給与の遅配、減った預金

株式を譲渡した後、投資会社から連絡が来ました。株式購入資金の支払いの一部を先延ばししてほしいという内容でした。7月と8月には給与の遅配が2カ月連続で発生しました。不安になった従業員が5〜6人辞めました。

経営者が会社の預金を確認すると、まとまった額の預金がなくなっていました。経営者は、自分の預金や生命保険を解約するなどして2023年9月に株式を買い戻し、代表に復帰しました。移行期間と解除の条件をあらかじめ設けていたため、買い戻すことができたと経営者は話しています。

経営者は「先方は事業承継など眼中になかったのだろう」と悔やんでいます。

社外に株を売るなら、それは「売却」という出口

経営者はこの取引を事業承継と呼んでいました。株を社外の相手に売ることは、売却という出口として扱います。会社の出口は4つあります。廃業、売却、M&A、上場です。親族や社員が継ぐ事業承継は、この4つとは別の道です。事業承継後も会社の出口は同じ4つとなります。事業承継とは、ただ出口を次の社長に託すことです。

廃業以外の3つの出口では、必ず「この会社はいくらなのか」が問われます。出口の準備は、会社の価格を知ることから始まります。買い手は、社長の報酬を相場に置き直した後の利益で会社を見る場合があります。会社の価格を測るときの一つのやり方です。

後継者がいない会社は少なくありません。帝国データバンクの2025年の調査を見ると、全国・全業種の約27万社のうち、後継者が「いない」または「未定」の企業は50.1%(13.8万社)(出典:帝国データバンク)。

買い手を確かめる時間と契約解除という選択肢

金砂郷食品の経営者が株式を買い戻せたのは、移行期間と契約解除の条件を書面にしていたからです。移行期間を設けると、買い手が経営を実際に回す様子を見る時間が生まれます。給与の支払いや預金の動きを、売り手の立場で確かめる時間です。また、解除の条件を書面に落としておくと、相手が契約を守らなかったときに、話し合いだけでなく契約解除という選択肢をも手元に残せます。

買い手が支払いの一部を先延ばししたいと言ってきたとき、解除条件がなければ、売り手は「交渉」しか道がなかったかもしれません。解除条件があれば、契約を終わらせる手順に進むこともできるのです。

お金が動く前に、その条件を書面にしておく。その順番を法・理・情の順に整えます。最初に法律部分と契約を固め、次に理屈と条件を合わせ、最後に感情のしこりを残さないようにする。移行期間と解除条件は、この「法」の段階で決める項目です。相手の言葉を信用する前に、支払いの方法と資金の出どころ、経営を移す期間を書面で確認しましょう。

買い手を確かめるといっても、相手の内面を完璧に理解することはできません。しかしながら、書面で合意したことと、実際に起きた事実を照らし合わせることはできます。金砂郷食品では、給与の遅配と預金の減少という事実があり、あらかじめ設けた解除の条件をたどることで代表に復帰することができたのです。

何を確認するか

出口を決める基準は、社長自身がこの先どう生きていきたいかです。出口に不正解はありませんが、『何も選ばない』ということだけはお勧めできません。社外の相手に株を譲る場合、移行期間と解除条件を書面にしておくことは、一つの選択肢です。

あなたの会社で社外の相手に株式を渡すとしたら、買い手の支払い方法と資金の出どころを、どんな書面に明記してもらいますか。移行期間と解除の条件は、いつ誰が決定しますか。

※HTML版がこのページの正本です。本記事は事業に関する教育と情報提供であり、売却価格・融資・投資・税務の個別の助言ではありません。

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