会社売却で通帳と印鑑を渡す前に、買い手を確かめる順番
M&Aで会社を売却する際、通帳と印鑑を渡す前に書面による取り決めを整えることが重要です。

M&A契約日、何が相手に移るのか
神奈川県で建設会社2社を経営していた経営者Bは、経営から退くため事業譲渡を考え、M&A仲介会社に売却先の紹介を頼みました。株式譲渡契約の直前の8月5日、その仲介会社とのアドバイザリー契約は解約されることになりました。経営者Bによると、仲介会社の担当者が勧めた買い手の会社に、2社の売却を決めたといいます。
株式譲渡契約と通帳/印鑑の引き渡し
2024年8月15日、経営者Bはその買い手の会社と2社の株式譲渡契約を結び、通帳と印鑑を引き渡しました。
2024年8月15日から2025年1月16日までの間に、2社から多額の資金が買い手の会社や関係先に送金されていました。新しい代表者の就任や従業員への給与未払いなどが起き、経営者Bは2025年1月16日付で代表に戻りました。
経営者Bは「完全に騙され、会社から資金を抜かれた」と話しています。一方、買い手側は、送金はいずれも正当な手続きに則り、買収先の資金管理の一環として行ったと説明しています。東京商工リサーチによると、この件は損害賠償の訴訟に発展していきます。(出典:東京商工リサーチ TSRデータインサイト(2025年7月11日))
契約日、何が相手に移るのか
双方の言い分は分かれています。この記事では、どちらが正しいかは明言されていません。確かなのは、株式譲渡契約を結んだその日に、通帳と印鑑も引き渡していたことです。
通帳と印鑑は、会社のお金を動かすための道具です。渡した時点で、会社のお金を動かす権利も相手に移ります。その日までに何を書面にしておくかで、売り手が後から打てる手が変わります。
会社の出口は4つあります。廃業、売却、M&A、上場。事業承継は、親族や社員が継ぐ道であり、承継後も会社の出口は引き続き4つあります。それは、ただ出口を次の社長に託し、そのタイミングを引き延ばすことなのです。この事例は、売却という出口を選んだケースです。出口の選択肢を決める基準は、社長自身がこの先どう生きていきたいかです。出口に不正解はありませんが、『何も選ばない』ということだけはお勧めできません。
帝国データバンクが全国・全業種の約27万社を対象にした2025年の調査では、後継者が「いない」または「未定」の企業は50.1%(13.8万社)でした。後継者が決まらない会社が半数を超えています。会社を売る場合の段取りも、早いタイミングで書面を整えておくことをお勧めします。
法・理・情
エグジットの協業を進める際に「法・理・情」の順番があります。最初に、契約と書類の側面を確認/設定します。次に、互いの立場を数字と条件などで確認/設定します。気持ちを考慮するのは最後です。仲介会社の担当者と長く付き合っていると、その人への信頼を先に置きたくなります。ただ、信頼は書面の代わりにはなりません。お金を動かす前に、取り決めを書面にしておきましょう。「言わなくても分かっているはず」を書面に置き換えるのです。
通帳と印鑑は、渡した後で取り戻すのは大変です。この事例でも、経営者Bが代表に戻ったのは2025年1月16日でした。相手に渡す前に、どの書類をどの順番で交わすかを決めていますか。御社では、通帳と印鑑を渡す前に確認するべき書類は何枚そろっていますか。
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